一軒家や分譲マンションでの自死事案における事件処理の流れ
1 はじめに
一軒家や分譲マンションでの自死があったとき、後日当該物件を売却する際に自死の事実を告知する義務があるか、また、仮に告知しないで売却した場合に遺族に損害賠償義務が発生するかが問題となります(これらを総称して「売買事案」と言います。)。
2 自死直後の遺族の対応
賃貸事案と異なり、自死後すぐに対応しなければならない事項はそれほどありません。周囲に自死の事実を伝える必要も無いでしょう。
3 一軒家やマンションを売却する際の留意点
そのまま居住を続けている限りは、特に法的な問題は発生しませんが、売却する場合には売主や仲介会社に自死の事実を伝える義務があるか否か(告知義務の終期)が問題となります。
告知義務の終期
例えば、自死から1年後に売却する場合、遺族は自死の事実を売主に伝える義務はあるでしょうか。10年後に売却する場合、20年後に売却する場合はどうでしょうか。
告知義務の終期について、明確な判断を示した裁判例は存在しません。
ですが、自死後永遠に告知義務が認めらるという結論は、遺族にとって過大な負担であるだけでなく、調査をしなければならない不動産業者にとっても不可能を強いる結果となり、妥当とは言えないでしょう。
自死の事案ではありませんが、東京地裁2003 年9月19 日判決(判例秘書L05833820)は、マンションの一室で約3年2カ月前に殺人事件等があった事案について、「居住用の建物内あるいはその近傍で殺人事件等があったとしても,時が経つにつれて人の記憶が薄れることなどに伴い,それを忌まわしいと感じる度合も徐々に希薄になっていくものと考えられるところ,本件事件と本件売買契約との間の約3年2カ月という時間は,その意味では無視することのできない時間の経過であるといわなければならない」と述べ、時間希釈を根拠にマンションの買主に対する告知義務を否定しています。賃貸事案においても、裁判例が時間的希釈を根拠に将来賃料を算定していることからしても、一定期間が経過すれば告知義務は認められなくなるというべきでしょう。
建物が取り壊されている場合の土地売買
自死が起きた建物を取り壊し、土地を売却する場合にも告知義務は発生するのでしょうか。
大阪高裁昭和37年6月21日判決(判例時報309号15 頁)は、既に自死のあった座敷蔵が取り壊されていることを理由に損害賠償義務を否定していますし、東京地裁平成19年7月5日判決(判例秘書L06232963)も、自死があった共同住宅が既に取り壊されていることを理由の一つに挙げ、損害賠償義務を否定しています。
これらの裁判例からすれば、建物が取り壊された場合には告知義務は認められないと考えるべきでしょう。
4 分譲マンション特有の問題点
分譲マンションの階段やエレベーターなど、共有部分で自死した場合について、「他の居住者や管理組合から損害賠償を受けるのではないか。」といった相談を受けることがあります。
このようなケースはまだ稀で、基準となる裁判例も存在しないため、実際にそのような請求が行われた場合に個別に対応するしかないと思われます。また、請求する側からしても、共有部分の評価額の算定等、技術的に困難な問題が複数発生することが予想されます。
5 弁護士への相談
不動産を売却する際に、一度専門家に相談することをお勧めします。
6 弁護士への依頼
自死の事実を黙って売却してしまい、売主から損害賠償請求を現実に受けている場合には、弁護士に交渉や裁判を依頼することが考えられます。