相続問題の流れ
1 自死事案の発生
よくある相続関係の相談としては・・・
「夫が借金を残して亡くなったのですが、どうしたらよいでしょう」
「妻が亡くなったが、相続の件で妻の実家ともめているのですが、どうしたらよいでしょう」
「子どもが賃貸物件で亡くなったのですが、大家さんから多額の請求が来ないか心配です」
等です。
なお、最後の相談は賃貸物件問題にも関係してきます。
2 遺族が相続人であるかどうかの確認
まずは自分が相続人かどうかを確認します。配偶者(夫妻)は常に相続人になりますが、その他の遺族に関しては、相続人になる順位があります。相続関係については戸籍で確認すべきでしょう。養子の有無やいわゆる腹違いの兄弟姉妹は見落としがちなので注意しましょう。
相続人の順位
- 第1順位
被相続人の子は相続人になります。実子・養子、いずれも子にあたります。
なお、子が相続の開始以前に死亡したときや相続人の欠格事由(891条)にあたるとき、若しくは廃除によって相続権を失ったときは、子の子が相続人になります(877条)。代襲相続(欠格事由・廃除については後述します)。といわれるものです。子の子が相続権を失った場合は、さらにその子が代襲相続します。 - 第2順位
第1順位の相続人がいない場合には、被相続人の直系尊属が相続人になります(889条)。
例えば、父、母、祖父、祖母が存命の場合は、父と母が相続人になります。 - 第3順位
第2順位の相続人がいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります(889条)。父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血)の相続分の2分の1になります(900条4号ただし書き)なお、兄弟姉妹が相続人の場合も代襲相続が発生しますが、発生するのは1回のみです(要するに甥・姪の子どもは代襲相続しません)。 - 常に相続人になる者
配偶者は常に相続人になります(890条)。もっとも、いわゆる内縁の配偶者は相続人にはなれません。
3 遺言の有無の確認
遺言がある場合は、相続財産の処分は遺言に従うことになります。
遺言の方式は民法で決まっています。ですので、方式を満たしていなければ、遺言の効力は発生しません。細かい話ですが、遺言としての方式を満たしていなくても、死因贈与と認められることがありますので、その点は気をつけましょう。
遺言とは
- 遺言は、民法に定める方式に従わなければすることができません(960条)。方式に反した遺言は効力を生じません。ただ、死因贈与契約として有効となる場合もありますので、方式に違反がってもすぐに諦める必要はないでしょう。
- 遺言は、15歳に達した者が行うことができます(961条)。もっとも、遺言する際に遺言能力を有しない場合は効力が生じません(963条)。遺言時における遺言能力の有無は、裁判でも頻繁に争いになるところです。
- 遺言の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。もっとも、特別の方式が許されている場合は、上記3種類に限るものではありません(967条)。
- いずれの方式であっても、夫婦連名のように、2人以上の者が同一の証書で遺言することはできませんので気をつけましょう(975条)。
4 相続財産の調査
相続人はプラスの財産もマイナスの財産も相続します。
プラスの財産の主なものとしては、預貯金、不動産(土地、建物)、株式、車があります。
マイナスの財産は負債ですが、主なものとしては借金です。
相続人であれば、預貯金は金融機関に問い合わせれば開示されます。
不動産の調査はなかなか難しいところがあります。
株式については、相続人であれば、被相続人が利用していた証券会社に問い合わせればわかります。
借金に関しては、消費者金融については、請求書が届いたりするので、そこからわかることがあります。また、相続人がJICC、CIC、全銀協へ問い合わせれば、借入れの有無が判明します。
相続財産の注意点
相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。もっとも、被相続人の一身に専属したものは承継しません(896条)。また、祭祀財産(位牌、墳墓等)は、祭祀主催者が承継します(897条)。相続した場合は、一切の権利義務を承継するので、プラスの財産も、マイナスの財産も承継することになります。
一身専属したものとは、法律で死亡が法律関係の消滅事由とされているものや身分法上の関係のものを指します。
生命保険金、死亡退職金、遺族給付は、契約あるいは法律の規定に基づいて相続人などが取得するものなので、一般的には相続の問題は発生しません。ただ、ごく稀に発生する場合もありますので注意しましょう。
祭祀財産は祭祀を主宰すべき者(主宰者)が承継します。主宰者は、まずは被相続人の指定、指定がないときは地方の慣習、指定もなく慣習も明らかでないときは家庭裁判所の審判、という順序により定まります。
相続人が数人いる場合は、相続財産は共有になります(898条)。ここはよく問題になる点なので詳しく述べます。
金融機関の預金の払戻しに関して
遺産分割がされる前に共同相続人の1名から相続分について払戻し請求があった場合でも、これに応じない実務になっています。遺産分割前でも共同相続人全員から払戻請求があった場合は、これに応ずるという運用です。
ただ、改正相続法で、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額については、金融機関毎に法務省令得定める額を限度として、単独金融機関に対して払戻しを求めることができるようになります(もっとも、権利行使の際には、金融機関において、諸々の資料の提出・手続きを経ることが必要とされること自体は想定されます)。共有財産の管理処分について
共同相続人間の合意があればこれに従います。合意がない場合、保存行為は各相続人が単独で行えますが、管理行為は相続分の割合に応じた多数決により行うことになります。また、目的物の変更、処分行為は共同相続人全員の合意を得ないと行うことができません。保存行為の典型例は、相続不動産について相続人全員を名義人とする保存登記が挙げられます。管理行為の典型例は、相続不動産に関する賃貸借契約の解除が挙げられます。処分行為の典型例は、売却が挙げられます。複数の相続人がいる場合、相続分は以下のようになります(900条)。
子と配偶者が相続人の場合 各2分の1
配偶者と直系尊属が相続人の場合 配偶者3分の2 直系尊属3分の1
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1
子、直系尊属、兄弟姉妹が数人いる場合は、相続分を各人で等分します。法定相続人 配偶者 その他 子 父母 兄弟 子孫と配偶者 1/2 1/2 父母と配偶者 2/3 1/3 兄弟姉妹と配偶者 3/4 1/4 もっとも、被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定めることができます(相続分の指定)。ただ、遺言で相続分を定めるとしても、遺留分(後述します)に反することはできません。
例えば、配偶者にすべての財産を相続させる旨の遺言を残したとしても、子どもがいる場合は、子どもから遺留分減殺請求されるおそれが残るのです(遺留分減殺請求についても後述します)。
5 相続財産の承認or放棄
相続財産は、承認することも放棄することもできます。なお、限定承認という方法もあります。相続人は、相続が開始したことを知ったときから3か月以内に限定承認や放棄をしない場合は、単純承認したことになります。
あくまで開始したことを知った時から3か月以内なので、被相続人死亡の事実や先順位相続人の放棄を知った時から3か月ということになります。被相続人の死亡から3か月ではありません(死亡時に死亡の事実を知ることがほとんどだと思いますが)。
相続放棄や限定承認は死亡者の住所の管轄がある家庭裁判所に対して行います。なお、限定承認には相続人全員の同意が必要です。相続に関しては、熟慮期間の伸長という手続きもあります。
3か月という期間は、利害関係人の請求によって、家庭裁判所において伸長することができるとされています。
利害関係人には相続人も含まれています。
3か月以内に相続財産の調査を完了することができないような場合は、伸長の手続きをとるとよいでしょう。
相続財産の承認の注意点
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内(熟慮期間)に、単純承認、限定承認、または、放棄をしなければなりません。
ただし、この3ヶ月という期間は、家庭裁判所において、伸長することができます(915条)。
なお、一旦承認・放棄をした場合、熟慮期間内でも、相続の承認・放棄を撤回することはできません。ただ、民法総則や親族の規定による相続の承認・放棄の取消しをすることは可能です。相続人は単純承認をしたときは無限に被相続人の権利・義務を承継します(単純承認、920条)。
また、以下のような場合も単純承認したものとみなされます(法定単純承認、921条)。
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為と602条の期間を超えない賃貸は処分にはあたりません)
②相続人が熟慮期間内に限定承認または相続放棄しなかったとき
③相続人が、限定承認または相続放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(相続放棄したことで相続人となったものが相続の承認をした後はこの限りではない)。①と②には特に注意しましょう。①の典型例は、相続財産の売却行為です。また、物品を壊すような行為も処分にあたります。その他、諸々の場面で処分か否かが問題になってきます。
承認のうち、限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して、相続の承認をすることです(922条)。
例えば、被相続人に3000万円の資産と9000万円の借金があった場合、相続人が限定承認をすれば、9000万円の借金のうち3000万円を返済し、残り6000万円については返済する義務を免れることになります。
被相続人の資産がプラスマイナスで差し引きプラスかマイナスか不明な場合に役に立ちます。
もっとも、限定承認は、相続人が数人ある場合には、全員が共同でしかできません(923条)ので、あまり利用されていないようです。相続の放棄は家庭裁判所で行います(938条)。相続放棄をした場合、相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされます(939条)。
例えば、祖父母、父母、子(1人)がいる事案で、父が死亡した場合、母(配偶者)と子が相続人になりますが、子が相続放棄した場合は、祖父母が相続人になります。
仮に、祖父母も放棄した場合は、父の兄弟姉妹が相続人になります。
なお、熟慮期間中に相続放棄が行われなかった場合には、単純承認したとみなされますので(921条2号)、注意が必要です。まれに、後述する遺産分割協議と相続放棄がごっちゃになっていたり、家庭裁判所で放棄の手続きをとっていないのに一方的な意思で相続放棄したという人がいたりするので注意が必要です。
6 遺産分割の協議
相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、遺産分割協議をすることができます。
- 共同相続人は、被相続人が遺言で禁止した場合を除いて、いつでも、協議により、遺産の分割をすることができます。
協議がととのわない場合または協議することができない場合は、分割を家庭裁判所に請求することができます(907条)。 - 分割の方法としては、現物分割、競売や任意売却により得られた代金を分ける方法(換価分割)、1人の相続人が現物を取得し他の相続人に代金を支払う方法(代償分割)等があります。
不動産の遺産分割については、被相続人名義から直接移転登記をなす方法と、一旦共同相続人による共有登記を経て移転登記を行う方法があります。前者の方法が広く行われています。
7 派生する問題
遺留分侵害額請求や不当利得返還請求などの問題が生じることがあります。
8 弁護士のかかわり
相続問題に関して、弁護士は多くのことにかかわります。
相続全般について知りたい、相続放棄を頼みたい、遺産分割協議の代理人になって欲しい、(遺言がある場合)遺留分侵害額請求をして欲しい等、様々な場面でかかわりを持つことができます。