弁護士にできること 学校問題による自死

いじめ体罰自死の事件の流れ

1 遺族自身による調査

いじめ自死事件の場合、本人は亡くなってしまっているので、遺族がいじめの有無・いじめの内容を調べることになります。遺族が弁護士の下に相談に来る際に、既にいじめについて調べていることも多いです。この段階では、弁護士は、主に、調査の補助を行うことになります。具体的な調査の内容は以下の通りです。

子どもの遺品等でいじめ事実を調査する

日記、スマートフォンやパソコンの中身、SNS(ツイッター、LINE、インスタグラム等)の記載

周囲からの聴き取りでいじめ事実の調査をする

友人(クラス、部活等)、友人の親、担任教諭、学年主任教諭

2 学校(学校の設置者)による調査

いじめによる自死があった場合、学校や学校の設置者(地方公共団体や学校法人)によって調査が行われます。もっとも、学校等による調査は不十分であることもあり、いじめがあったのかどうかが明確にならないこともあります。ひどいケースでは、遺族がいじめを疑っているにもかかわらず、在校生の心のケアに関する調査しか行われなかったりする場合もあります(それ自体は重要なことですが)。この段階では、弁護士は、主に、第三者委員会設置の要請、第三者委員の推薦活動、第三者委員会に対する意見等を行うことになります。学校等の調査の内容は以下の通りです。

いじめ体罰自死の基本調査

学校による調査
指導記録などの確認、全教職員からの聴取、亡くなった子どこと関係の深い子供への聴取

自死事案が発生した場合は、主に学校によって基本調査が行われます。
基本調査では、

①遺族との関わり・関係機関との協力
②指導記録などの確認
③全教職員からの聴き取り
④亡くなった子供と関係の深い子供への聴き取り

が行われます。

基本調査で得られた情報の範囲内で、情報を時系列にまとめるなどして整理が行われ、学校の設置者(地方公共団体や学校法人等)に対して報告が行われます。いじめが背景に疑われる場合は、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態への対処として、地方公共団体の長へ報告が行われます。
学校および学校の設置者は、基本調査の経過および整理した情報について、適切に遺族に説明します。学校の設置者は、基本調査の報告を受け、詳細調査に移行するかどうかを判断します。
もっとも、

①学校生活に関係する要素(いじめ、体罰、学業、友人等)が背景に疑われる場合
②遺族の要望がある場合
③その他必要な場合

には必ず詳細調査に移行します。

なお、①の場合は、いじめ防止対策推進法に基づく対応(組織を設けての調査)が必要になってきます。
ここは一つのポイントなのですが、遺族は、学校の設置者または学校に対して、基本調査の結果について、きちんと説明するよう要望しましょう。遺族の要望がある場合は詳細調査へ移行することになりますが、基本調査の結果が分からなければ要望していいものかどうか、遺族には判断がつかないからです。

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いじめ体罰自死の詳細調査

調査機関による調査

 調査主体:公平性・中立性が確保された第三者調査委員会による調査
 調査内容:いじめの事実関係、学校の設置者および学校の対応

重大事態が発生した場合、学校の設置者または学校は、重大事態に対処し、同種の事態の再発防止のため、速やかに、事実を明確にするための調査を行うものとされています。調査に関しては、公平性・中立性が確保された組織が客観的な事実認定を行うことができるよう構成することとされています。
このため、弁護士、精神科医、学識経験者、心理・福祉の専門家等の専門的知識および経験を有するものであって、当該いじめの事案の関係者と直接の人間関係または特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦などにより参加を図るよう努めるものとされています。調査の際には、学校の設置者、学校または調査組織が、保護者に対して、

①調査の目的
②調査主体(組織の構成、人選)
③調査時期・期間(スケジュール、定期報告)
④調査事項(いじめの事実関係、学校の設置者および学校の対応)・調査対象(聴き取りなどをする児童生徒・教職員の範囲)
⑤調査方法(アンケートの様式、聴き取りの方法、手順)
⑥調査結果の提供(被害者側、加害者側に対する提供)

を説明します。

自死の事実を他の児童生徒ら外部に伝える必要がある場合には、遺族から了解をとるよう努めることとされています。遺族が自死であると伝えることを了解しない場合は、学校が「うそをつく」と児童生徒や保護者の信頼を失うことにもなるので「急に亡くなられたと聞いています」という表現にとどめるなどの工夫を行うこととされています(「事故死であった」、「転校した」などと伝えてはいけない)。

学校の設置者および学校は、保護者に対して、調査の進捗など経過報告を行うこととされています。いじめ防止対策推進法では、学校の設置者または学校が、調査に係る重大事態の事実関係やその他の必要な情報を、保護者に対して適切に説明するとされています。調査結果は、地方公共団体の長等に対して報告・説明が行われます。その報告・説明の際、保護者は、調査結果に係る所見をまとめた文書を添えることができます。

調査結果を公表するかどうかは、特段の支障がなければ公表することが望ましいとされています。公表の際には、学校の設置者および学校は、被害児童生徒・保護者に対して、公表の方針について説明を行うこととされています。報道機関に公表する場合、他の児童生徒または保護者に対して、可能な限り、事前に調査結果を報告することとされています。学校の設置者および学校として、自ら再発防止策(対応の方向性を含む)とともに調査結果を説明しなければ、事実関係が正確に伝わらず、他の児童生徒または保護者の間において臆測を生み、学校に対する不信を生む可能性があるからです。調査結果を踏まえ、いじめが認定された場合は、加害者に対して個別に指導が行われます。加害者に対する懲戒の検討が行われることもあります。学校の設置者、検証・再発防止の検討を行い、重大な過失などが調査結果で指摘されている場合は、教職員の懲戒処分の要否が検討されることもあります。

重大事態の調査が不十分である可能性が高い場合、地方公共団体の長等は再調査を検討することになります。
再調査が検討される場合とは、

①調査などにより、調査時には知り得なかった新しい重要な事実が判明した場合または新しい重要な事実が判明したものの十分な調査が尽くされていない場合
②事前に被害児童生徒・保護者と確認した調査事項について、十分な調査が尽くされていない場合
③学校の設置者および学校の対応について十分な調査が尽くされていない場合
④調査委員の人選の公平性・中立性について疑義がある場合

です。
注意点がいくつかあります。

また、いじめられて重大事態に至ったという申立てが被害児童生徒や保護者からあったときは、重大事態が発生したものとして報告・調査が行われなければなりません。この点をきちんと理解せず、学校の設置者や学校が、はじめから「学校としては重大事態があったとは理解していないが…」といった態度を示してくることがあるので、注意が必要です。

まず、重大事態は、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければなりません。

調査組織の調査について、定期的に適時のタイミングで経過報告が行われることになっています。しかし、定期的な報告が行われていない調査が散見されます。調査組織から報告がない場合は、遺族からも、進捗状況の報告を求めるとよいでしょう。

調査方法について、調査組織から説明があります。その際、遺族から要望を出すことができますので、要望があれば出すようにしましょう(可能な限り、反映されることになります)。調査結果の公表については、いろいろな方法がありえます。調査報告書をホームページに掲載するかどうか、掲載するとしても全文にするか概要にするか、掲載する期間はどうするかといった点について、遺族は学校の設置者ときちんと協議すべきでしょう。

調査そのものではないのですが、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付の申請を忘れないようにしましょう。本来、学校の設置者の方から手続きの説明があるはずですが、行われていないことも多いようです。

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3 責任の追及等

災害共済給付金制度の申請

学校の管理下の事故によって児童生徒が死亡した場合には、災害共済給付金(死亡見舞金)が支給される制度があります。この段階では、弁護士は、遺族の代理人として、災害共済給付金の申請(をさせる)、(申請が棄却された場合の)不服申立て、(不服申立てが棄却された場合の)災害共済給付金支払請求訴訟を行うことになります。

なお、基本的には、学校の設置者がスポーツ振興センターに対して災害共済給付金の申請を行いますが、保護者による申請も可能です(学校の設置者を経由する必要があります)。

※名称に「スポーツ」と含まれますが、体育の授業や運動部内のいじめ体罰に限らず、学校の管理下でいじめによる自死があった場合にも適用されます。

スポーツ振興センターは、その正式名称を「独立行政法人日本スポーツ振興センター」といいます。スポーツ振興センターでは、義務教育諸学校、高等学校等の管理下における災害に対し、災害共済給付(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金の支給)を行っています。

なお、学校の設置者がスポーツ振興センターとの間で災害共済給付契約を締結していない場合には災害共済金は給付されませんが、小学校では99.9%、中学校でも99.9%、高等学校では97.8%が契約を締結しているようです(令和元年度)ので、ほとんどの場合は給付の対象となると思われます。死亡見舞金の金額は3000万円です。死亡見舞金の請求は、学校の設置者が行いますが、児童生徒等の保護者も、学校の設置者を経由して、自ら請求することができます(センター法施行令4条2項)。保護者が要請すれば学校の設置者が請求を行うことが多いですが、学校の設置者が拒否した場合は、保護者が請求することになります。学校の管理下における児童生徒等の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)が発生した場合に災害共済給付が行われます。自死事案の場合、学校の管理下において発生した事件に起因する死亡に場合に学校の管理下における災害とされます。

ここでいう事件についてですが、いじめや体罰等が含まれますが、教師の適正な指導、児童生徒の成績不振及び児童生徒の学校生活における通常の対人関係による不和は含まれません。死亡が学校の外で起きていても、事件が学校の管理下で起きていることが明らかな場合は、学校の管理下の事故を原因とする死亡に含まれます。死亡見舞金の給付を受ける権利は、死亡の日から2年の経過で時効により消滅します。ちなみに、学校等の設置者に対する訴訟の提起をしたとしても、時効が止まるわけではありません。なお、あくまで時効ですので、スポーツ振興センターが時効を主張しなければ、給付金の支給は認められます。2年を過ぎた場合でも、請求してもらえるよう学校の設置者と交渉してみるとよいでしょう。

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民事責任の追及

いじめによる自死が起こった場合、いじめの加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求ができます。学校の設置者に対しても、債務不履行責任に基づいて、損害賠償請求を行うことができます。加害者について責任能力が認められない場合は、監督責任である加害者の親に対しても、損害賠償請求をすることができます。責任能力の有無に関しては、判例を参考にすると、12歳前後が基準となっています。損害賠償請求については、法的には、子どもに損害賠償請求権が発生し、子どもが亡くなったことによって、相続人がその損害賠償請求権を相続するということになります(相続に関しては、他の章を参照ください)。

なお、人が亡くなっている事案なので、相続人でなくても近親者(民法711条参照)にあたれば、その人固有の損害賠償請求権が認められます。

追及方法① 任意交渉

いじめ加害者や学校の設置者に対する謝罪・損害賠償を求めて任意交渉をすることが考えられます。弁護士は、遺族の代理人として、いじめ加害者等と交渉することになります。

追及方法② ADR(Alternative Dispute Resolution)

ADRとは裁判外の紛争解決手続きのことをいいます。いじめ加害者や学校の設置者に対する謝罪・損害賠償を求めてADRに申立てを行うことが考えられます。訴訟と異なり柔軟な解決が図ることもできますが、成立には両当事者の合意が必要となります。弁護士会等に設置されています。なお、東京弁護士会では、学校問題ADRという専門のADRが設置されています。弁護士は、遺族の代理人として、ADRの申立てを行ったり、期日に出頭したり、意見書等の提出を行ったりします。

追及方法③ 裁判所

いじめ加害者や学校の設置者に対する謝罪・損害賠償を求めて裁判所に調停の申立てや訴訟の提起をすることが考えられます。

民事責任の問題点

まずは、予見可能性の問題が挙げられます。自死による損害は「通常生ずべき損害」(通常損害)ではなく「特別の事情によって生じた損害」(特別損害)とされてきました。そして、特別の事情によって生じた損害について加害者に責任を負わせるためには、加害者による予見可能性が必要になってきます。予見可能性が認められる場合としては、

①本人による自死のほのめかし
②明らかに異常な精神状態
③重大ないじめ

といったケースがあります。もっとも、最近話題になった大津市の事件では、自死の損害が、特別損害ではなく、通常損害とされました。今後、損害や予見可能性についてどのように扱われるかは、裁判例の集積を見守る必要があります。次に、因果関係の問題が挙げられます。いじめ行為と自死の間の因果関係が否定されることもあります。この場合でも、いじめ行為と被害者の精神的損害(心が傷ついた)の間の因果関係は肯定されます。そして、自死そのものの因果関係が認められなくても、いじめと精神的損害の間の因果関係が認められた場合は、一般の精神的損害に対する損害額よりも多額の損害が認められることもあります。さらに、過失相殺の問題が挙げられます。民法では、被害者に過失があったときは、裁判所は被害者の過失を考慮して損害額を決めることができるとされています。なお、被害者の過失には、被害者側(被害者と身分または生活関係上一体とみられるもの)の過失も含まれます。いじめ事案では、過失相殺が認められることが多いです。筆者は、自死は「追い込まれた末の死」なのであるから、過失相殺を認めるべきではないのではと考えますが、残念ながら裁判例では認められるケースが多い現状があります。

刑事責任の追及

いじめの加害者を刑事裁判で罰してもらうことが考えられます。いじめ加害者を起訴するか否かは検察官に権限があります。弁護士は、遺族の代理人として、いじめによる被害について警察・検察に被害届を提出したり、告訴を行ったりします。その際に、いじめ被害を裏付ける資料を添付します。

  1. いじめ加害者が直接暴力をふるっていれば、暴行罪や傷害罪になることが多いでしょう。また、いわゆるカツアゲが行われていた場合は、恐喝罪や強盗罪になることもあると思われます。悪口を広められた場合は、名誉棄損罪や侮辱罪にあたることがあるかもしれません。
  2. 遺族ができる刑事責任追及の方法としては、上記の犯罪があったとして、刑事告訴することです。その際は、警察か検察に告訴を行うことになるでしょう。告訴を行う場合は、いじめ加害行為を具体的に明らかにし、資料も付けた上で、警察・検察に告訴状を提出しましょう。