インターネット事件の流れ
1 典型的なトラブル
インターネットのトラブルは、大きく分けて、トラブルが原因となって自死に至るケースと、自死後にトラブルが発生するケースとがあります。
前者の典型としては、ネットいじめや誹謗中傷などがあります。最近ではテレビのリアリティショーに出演した女子プロレスラーが、ネットの書き込みを苦に亡くなったケースや、東京都町田市でタブレットのチャット機能を用いたいじめで小学生が亡くなったケースがありました。
後者の典型としては、インターネット掲示板で遺族のプライバシーを暴露する書き込みがなされるケースや、いわゆる事故物件サイトにおいて遺族のプライバシーを侵害するような書き込みがなされるケースがあります。
以下では、総論として準備すべきこと、取り得る法的手段について述べたうえで、各論としてケースごとの特徴、対策について具体的に述べたいと思います。
2 準備すべきこと、取り得る法的手段
証拠を残しておく
重要なことは、メッセージや書き込みの証拠を残しておくことです。 LINEのストーリー機能など、一定時間が経過すると書き込みが自動的に削除されることもありますので、発見したその時に証拠化しておくことが重要です。
スクリーンショットの残し方
メッセージや書き込みを証拠化するには、スクリーンショットを残しておくことが一番簡単です。ただし①投稿内容②当該ウェブページのURL③スクリーンショットした日付―が明示される方法で証拠化することが必要です。
特に②については、URLの表示がないスクリーンショットについて証拠としての価値がほとんどないとした判決もあるので注意が必要です(知財高裁平成22年6月29日判例秘書L06520292)。できるだけ多くの情報を残しておくためには、スマホを操作しているところをそのまま動画で撮影して保存しておくことも考えられます。
裁判所を用いた証拠収集
発信者を特定するためには、通常①サイト管理者またはサーバー運営者に対して、IPアドレス等の開示請求を行い②サイト管理者等から開示されたIPアドレス等から経由プロバイダ(インターネットに接続する回線を提供する業者)を特定し③経由プロバイダに対して発信者の住所や氏名の開示請求をすることが必要です。
発信者情報開示請求仮処分と発信者情報開示請求訴訟
上記①については、典型的には、発信者情報開示請求仮処分を裁判所に申し立てることになります。これにより開示されたIPアドレスをWhois(IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報をインターネットユーザーが誰でも参照できるサービスです。)で検索すると②経由プロバイダを特定することができます。
そのうえで③経由プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起すれば、いじめや誹謗中傷の書き込みをした発信者の氏名や住所などの情報を得ることができます。
法改正による証拠収集の迅速化
先に紹介した女子プロレスラーの自死事件を契機に、インターネット上の誹謗中傷に対する法的対応について議論が進み、20214月21日にプロバイダ責任制限法が一部改正(2022年10月下旬までに施行)されることとなりました。
従前(2)で述べた手続きに要する時間は、最低でも半年程度はかかると言われていましたが、法改正により新たな裁判手続き(非訟手続き)が制定され、発信者情報開示の迅速化が期待されます。
証拠収集後に、書き込みを削除し、投稿者の責任を追及する手段
証拠収集が終われば、具体的な対応を検討することになります。考えられる対応としては、削除請求、投稿者に対する損害賠償請求、刑事告訴があります。
削除請求
削除請求自体は発信者を特定していない段階でも行うことができます。
方法として一番簡単なのは、サイト内に削除のウェブフォームやメールフォームがある場合、これを用います。ウェブフォーム等には、通常、氏名、連絡先、該当URL、削除を求める理由の欄があり、これに記入して請求すればいいでしょう。匿名での投稿も可能ではありますが、対応を拒否される可能性が高くなります。
ウェブフォーム等がない場合には一般社団法人テレコムサービス協会の書式を用いて削除請求します。
サイト管理者が削除に応じない場合は、裁判所に削除請求仮処分を申し立てることになります。
投稿者に対する損害賠償請求
投稿者が特定され、氏名や住所が明らかになっていれば、投稿者に対して謝罪を求めたり、損害賠償を請求したりすることが可能となります。損害の費目としては、慰謝料、弁護士費用(一部)、調査費用、逸失利益などが考えられます。
利用可能な手続きとしては民事調停および訴訟が考えられます。
刑事告訴
名誉棄損罪、侮辱罪、死者に対する名誉棄損罪、軽犯罪法違反、リベンジポルノ防止法違反等が考えられます。警察は、ある程度の証拠を集めていないと告訴状を受理してくれないことが多いですから、この場合もスクリーンショットなど証拠をあらかじめ用意することは必須です。
3 ネットいじめ
ネットいじめとは
最近は子どもがスマートフォンを使うようになり、ネットいじめとしてSNSが利用されることが増えてきました。SNSの場合、投稿者が誰なのか判別は比較的容易です。また、LINEグループのようにリアルの友達関係の延長線上でネット上の交友関係が作られていることも特徴です。
近時のネットは現実の生活から独立したものというよりも、現実の生活を補完する道具として機能する点が特徴となっているため、ネットでいじめの痕跡を発見した場合には、リアルでのいじめの可能性も疑うべきでしょう。
ネットいじめの典型例
ネットいじめの類型としては、以下のようなものが典型となります。
①誹謗中傷やプライバシー情報を暴露するコメントを書き込まれた。
②なりすましアカウントを作られ、虚偽の情報やプライバシー情報を暴露された。
③自分の画像を勝手に加工され拡散された。過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)。
④グループトークを外された。誹謗中傷を書き込まれた。うその告白をされた。
⑤いじめられているところを動画撮影され、拡散された。
⑥ネットゲームのボイスチャットで暴言を吐かれた、味方殺しのターゲットにされた。
学校の調査と遺族の調査は、いわば「車の両輪」
このように、最近のネットいじめがリアルな人間関係を前提とする以上、いじめの真相解明のためにはリアルな人間関係の調査が必要となります。自死事案の場合には、学校設置者(自治体や学校法人など)に対して詳細調査を要求し、第三者委員会によるアンケートや聴き取りを求めるなど、十分な資料収集を要求することが必要です。
また、ネットでの名誉棄損やプライバシーを侵害する投稿がなされた場合、学校設置者には発信者情報開示請求を行う権利がありません(当該書き込みによって被害を受けているのはあくまで自死した子やその遺族だからです)。したがって、SNSなどでいじめが行われた場合、投稿者を特定することができるのは遺族のみとなります。
このように、ネットいじめを原因とする自死事件では学校設置者に対する詳細調査の要求と、遺族による独自の調査をいわば車の両輪のように組み合わせることが必要となってきます。ネットいじめに対する具体的対応については、私たちが執筆を担当した、「弁護士によるネットいじめ対応マニュアル」をご参照ください。